FIT TO PRINT – GAGOSIAN

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図書館の司書に出会う機会というのは、日常的にあるわけではない。実際、司書という職種から多くの人が想起するのは、本が唯一の手がかりであった時代への郷愁だろう。触覚的な性質と保存に対する情熱という点で、ベン・リー・リッチー・ハンドラーが、パンク・ロックやレコード収集、そして芸術という彼のルーツを振り返れば、彼が司書になったことは必然である。彼がタイムトラベルにもっとも近い人物だという人もいるかもしれない。彼の指先一つで、誰もが何世紀にもわたる情報や芸術の歴史に触れることができるからだ。ビバリー・ヒルズのガゴシアン・ギャラリーにおける彼の役割は、アート業界がアイデンティティと勇気を保ちながら進化するのを手助けすることだ。彼は、閉ざされたエリート主義のギャラリー空間で何が起こっているのか、あるいは、ギャラリーにとって、アーカイビスト(=保管人) がいかに重要であるかを教えてくれた。

あなたは、かなり風変わりな経緯でガゴシアンギャラリーの最初の司書になりましたね。しかも、その肩書きを名乗っているのは、あなた一人です。いきさつを教えていただけますか?

ギャラリーには常に、司書的な役割を務められる素晴らしい人々がいましたが、その役割を専門化したことは今までありませんでした。私がチームに参加してから、ニューヨークで学位を取得した2名をさらに採用しました。The Cureのヴォーカルでもあるロバート・スミスと、アリエル・コーヘンです。最高にクールな人たちです。

私は大学で英文学を専攻していましたが、パンク・ロックにも夢中でした。また、本やレコード、漫画本も熱心に蒐集していました。ザ・ブラッド・アームというバンドでしばらくツアー活動をしていましたが、ほどなく、ロックバンドのMCでは成功できないだろうと気付いたんです。そして、自分の興味の対象を振り返り、人生の棚卸しをすることに決めたんです。私はいつも、物の目録を作ることが得意だったので、図書館と情報科学の大学院に入学しました。もし一度でも図書館学校に行った経験があればわかると思うけど、そこはパンク・ロッカーや、社会的な自由主義者、情報アクセスの機会均等を熱心に謳う人々で溢れてるんです。

私が自分が好きな珍しい本や音楽、芸術の目録を作る事に専念しました。フランツ・フェルディナンドのニック・マッカーシーの知己を得て、キム・ライトのギャラリーでアーカイビストとしてのキャリアを歩み出すことになりました。その後、ハマーギャラリーやLACMAの図書館でも働きました。そして運良く、C ニコラス・プロジェクトのクリスティン・ニコラスが、ガゴシアン・ギャラリーのディレクターの一人であるデボラ・マックレオドに紹介してくれたんです。僕らはすぐに意気投合し、以来、ここで4年間働いています。ここ以上にインスピレーションに溢れた職場は無いと思います。素晴らしい人々や、私が憧れてきたアーティスト達に、常々、囲まれているのですから。

特定のアーティスト、あるいは本やzineなど、この時点までに蒐集していた稀少な印刷物はありましたか?

UCLAの学生時代に、多くのアート業界人に出会いました。まず、私のルームメイトは、(ミュージシャンではなく画家の) ニック・ロウで、彼はライ・ロックレンの親友でした。あるいは周辺には、ジョン・プラプチャック、ベンジャミン・ロード、マット・ジョンソンやジョナス・ウッドらがいました。彼らはいつも美術展に行ったり、風変わりなラップを書いたり、あるいは奇抜なパフォーマンスなど、クールな活動をしていたんです。そういったことがきっかけで、自分が精通しているZINEカルチャーやハードコア、パンク、インディペンデント・アートとはまた異なる、非常にクリエイティブな人々と知り合う機会が増えていきました。

価値が上がるだろうと思って何かを収集した事は一度もありませんでした。最初は、ニックという代理人を通して物を入手していました。彼はよく、自分で交換してきたアート作品を私たちのアパートに放置し忘れることがあって、私が「これは何?」と聞くと、「ロジャー・ヘルマン。過激だよ。俺には扱いきれない。欲しいか?」と聞いてくるんです。もちろん、欲しい!ってね。そうしてアートを蒐集するようになり、その界隈で何が起こっているのか、洞察を深めることになったというわけです。

その後、私はエディション付きアートプリントを収集し始めました。それまでも、シルクスクリーンのロック・ポスターを集めたことがあったので、自然な成り行きでした。ザ・ニードやロケット・フロム・ザ・クリプト、あるいはソニック・ユースのポスターは、今でも額装して自宅に飾っています。ともかく、私はプリント版の気軽さと民主的な性質が好きなんです。私や私の妻のような人でも買えるわけですから!  ニューヨークのプリンテッド・マターに行けば、レイモンド・ぺティボンのプリント版を安価に手に入れることができます。プリンテッド・マター・ロサンゼルスが主催するアートブックフェアのガゴシアン・ブースでは、存命アーティストの中でも最も人気がある、ウルス・フィッシャーのプリントが、オリジナル作品の市場価格と比較すると1%にも満たないような価格で購入できます。なんて大衆向けで、素晴らしい存在でしょう!

同じようにアクセスしやすい存在として、他に何が挙げられますか?

視覚芸術の蒐集という意味では、アート業界より、むしろ音楽業界の方が、LP収集の特性からしても、その役割を担ってきたと言えるかもしれません。レコードを購入することは、つまり、12インチ角のアート作品を手に入れることと同義語です。多くのレコード収集家にとって、レコードを楽しむこととは、音楽そのものもさることながら、ジャケットという芸術を眺めることでもあるわけです。私なんて、ELOの『イントゥ・ザ・ブルー』を1,000時間は眺めたと思います(あまり大きな声では言えませんが)。

レコード収集家の多くが、LPジャケットを通じて芸術に触れ、それに対する理解を深めています。例えば、ブラック・フラグ・デイズを通じてレイモンド・ぺティボンを、あるいは、ソニックユースからぺティボンとマイク・ケリーを知る、というふうに。マーク・ライデンは、シンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリーのジャケットを描いていました。真に優れた芸術とは、媒体を超越するのです。

同時に、文脈や理解といった論点においてはどうですか?

もしあなたが、あらゆる形態のアートコレクターであれば、そのジャンルの言語を重要視すると思います。つまり、ぺティボンやケリーの視覚言語とは、偶像破壊的かつ冷笑的で、同属の音楽と親和性が高いわけです。更に、デジタル・メディアの時代において、本や出版物、レコード盤を購入するという行為自体、偶像破壊的であると言えると思います。アートブックフェアや、ウォムブレトンやアメーバ等のレコード店に行く人は、デジタル・メディアの蔓延に反対的であると言えます。彼らは、触ることができて、棚から手に取って、壁に掛けられるような、つまり永続的に存在する物質が欲しいのです。

図書館そのもの、あるいは、ガゴシアン・ギャラリーにとっての図書館の意義をもう少し教えてください。

エキシビションで見ることができるものは、ギャラリーで起こることの、およそ半分しかありません。ギャラリーに出入りする委託作品の中にも、優れた作品が多数あります。アート作品の販売スタッフは、わずかな期間で作品やアーティストについてのすべてを十分に理解する必要があります。ガゴシアンの販売スタッフは、皆、美術史を学んだ人たちですが、例えばピカソやバスキアの作品を扱う場合、作品そのものだけではなく、それが論じられてきた全ての文献を読む必要があるわけです。なぜなら、その作品が本や目録に掲載されている場合、もしくは、展覧会カタログに載っている作品であれば、さらに購買意欲は高まるでしょうし、その作品の重要性への理解を深めるきっかけになります。壁に展示されている作品が本にも掲載されていると、なぜか魅力が増すのです。つまり、我々が扱うアート作品が美術史という壮大な物語においていかに重要であるのかを、図書館が証明するのです。

多くの人が、司書の仕事とは、本で一杯のカートを押したり、貸し出しカードに印を押すことだと思っていますが、実際にはどのような仕事をしているのですか?

私は一日の大半を画像アーカイブで過ごします。ガゴシアンは、世界に13のギャラリーを持っていますが、それ以外にも、期間限定のギャラリーや本屋、レストランがあります。世界中に販売員やクライアントがいますが、アート作品がギャラリーに収蔵される際には、スタッフ全員がその事実を知る必要がありますし、それ以上に、その作品の外見を知ってることが何より重要です。そのために我々は、アート作品を撮影し、その画像をガゴシアン・チームに配信する標準化されたシステムを擁しているのです。

ギャラリーの図書館は、私の赤ちゃんのような存在です。4年近くギャラリーで働いていますが、図書館をより機能的にし、また作品の目録化を進めるために、日々、UCLA院生のインターンたちと協働しています。

ギャラリー内のお気に入りの本は何ですか?

エド・ルシャの全作品集を収めたボックスセットです。一冊一冊が、まるで美しい文化的試金石のような存在です。ルシャは、現代美術のアーティストブックの生みの親と言えると思います。彼はそれら全て納めることのできるボックスセットを発明しました。すべての本がここに収納されると、まるで都市のスカイラインのように見えるんです。

ガゴシアンの出版物の中で、私が一番好きなのは、リチャード・プリンスびにょる『ベティー・クライン』です。抽象画家のフランツ・クラインは、ベティー・ページを有名にしたフェティッシュ写真家のスタジオの隣に、アトリエを構えていました。この本の中で、プリンスは、インスパイアし合ったであろうベティの写真とクラインの作品を重ね合わせていて、非常にエネルギッシュな試みだと思います。

私たちは、サザビーズが再版したゼルボス・ピカソのカタログ・レゾネも所有していますが、その存在感(30冊から構成される)と研究の深度、両方の意味で、非常に素晴らしいと思います。その他の名作には、デュシャンとブルトンの『 Le Surréalisme en 1947』ですが、私たちの収蔵品には、本来、表紙についているべき”胸”が取れてしまっています。

印刷物の衰退により、アーカイブが将来的に消滅するかもしれないと懸念しますか?

アーカイビストの重要性が以前に増して問われているのは、情報生産がずっと簡便化されたからです。思慮に欠けた情報が溢れ、あるいは、皆、クリックひとつでなんでも検索可能であると勘違いしていますが、物事はそこまで単純ではありません。アーカイビストは、情報を保存し検索するというレトロなシステムの舵取り役なのです。

図書館や書店も、同じく重要です。現代美術は体験的な存在ですが、書物も然り。レコードで音楽を聴く事が、iTunesで曲を聴くことと同じでないのと同様に、キンドルでアートブックを読むことはできません。

そう考えるのは、私だけではないと思います。LAのアートブックフェアの参加者は、年々増加していて、初年度の18,000人から、今年は35,000人を数えています。もちろん、本の写真を撮影して、アマゾンで検索するのは簡単ですが、ブックフェアには、オンライン上には存在しない、小さな出版社の作品が多数出品されています。とても親密で、リアルだと私は思います。

アートブックをより有意義に蒐集するためび必要なステップを教えていただけますか?

金儲けのためにアートブックを蒐集しようと思うなら、株をやった方がいいと思いますよ。あなた自身が魅力を感じて本を購入する、それ以外に、良い蒐集方法などありません。多くの書店は、メディアについて熱心な人で溢れているので、どんどんスタッフに話しかけてください。彼らは、本について語ることが好きで仕方ないはずです。ニューヨークのガゴシアン書店を経営するアンドレア・アーバンは、本当に豊かな知識と情報を持っています。LACMAのアート目録を担当しているダニー・コルコランは、本当に博識です。リサーチのためにも、あなたの街で開催されるアートブックフェアの日程はすべて、カレンダーにマークしてください。もちろん、ビバリー・ヒルズのガゴシアンに立ち寄る機会があれば、フロントで私を呼び出してください。

インタビュー:ダスティン・ベッティー
写真:ジョーダン・ミナルディー